スタジオジブリ・レイアウト展レポート

2008年7月27日、東京都現代美術館で開催されている「スタジオジブリ・レイアウト展」に行ってきました。
1週間程前から始まった「崖の上のポニョ」の公開に合わせてのイベントですが、公開前からCMなどで大々的に告知されていました。今まで、原画や風景画を展示したイベントは多数あったのに対し、レイアウトを展示したイベントは少なかったので、かなり画期的な展示会になっているだろうと個人的には期待していました。


猛暑が続く毎日でしたが、この日は曇っていて割と過ごしやすかったです。現代美術館付近は日光を遮るものが無く、アスファルト地獄でとても暑いので助かりました。


今回のイベントは日時指定の予約制とあって、昨年の「男鹿和雄展」のように長い行列ができることもなく、すんなりと会場の中に入ることができました。
イベントの開催を祝して、各方面から巨大な花束が贈られていました。

会場内は一部を除いて撮影禁止だったため、ここからは文章のみの説明となります。

受付でチケットを渡すと、スタッフに音声ガイドの入ったヘッドホンを使用するかどうか聞かれましたが、私はジブリ作品についてもレイアウトシステムについても予備知識はあったので、これを断りました。
受付を過ぎると、まずはレイアウトに関する詳細な解説文がありました。今や「ジブリ」はブランド化されていて沢山の来場者を見込めるわけですが、レイアウトシステムに関する知識がない人の方が多数派でしょうから、冒頭に解説文は必要不可欠ということですね。

解説を読み終えると、いよいよイベントのメインであるレイアウトの展示スペースに進むことになります。
スタジオジブリ作品のレイアウトが、「風の谷のナウシカ」から「ゲド戦記」まで公開順に展示されていました。
作品によって結構展示されているレイアウトの枚数にバラツキがありましたね。「千と千尋の神隠し」、「もののけ姫」、「ハウルの動く城」といった近年の宮崎駿監督作品は大量に展示してありましたが、「海がきこえる」や「猫の恩返し」などの宮崎・高畑ご両人以外の監督作品は少なかったです。また、宮崎監督作品でも1980年代の作品は少ない傾向があり、「魔女の宅急便」のレイアウトは1枚しかありませんでした。1990年代以降の作品は人気によって展示量が変わっている印象がありましたが、1980年代の作品はそもそもレイアウトがあまり保存されていないのかもしれません。「魔女の宅急便」の人気を考えると、1枚だけの展示というのは有り得ませんから。
「耳をすませば」までは淡々とレイアウトが展示されていましたが、「もののけ姫」以降では壁一面に貼られた巨大なレイアウトの拡大コピーも見ることができました。特に「千と千尋の神隠し」の油屋のレイアウトは迫力ありました。

スタジオジブリ作品のレイアウト画の次には、「『レイアウトシステム』のはじまり」と題し、「アルプスの少女ハイジ」から「名探偵ホームズ」までのレイアウトが公開順に展示されていました。先程のスタジオジブリ作品のレイアウトの展示が第1部で、こちらが第2部になります。高畑さんと宮崎さんが「アルプスの少女ハイジ」や「母をたずねて三千里」といった名作劇場シリーズでレイアウトシステムを確立していったのは知っていましたが、実際にこれらの作品のレイアウトを見るのは初めてでした。近年の作品ほど描き込みは複雑ではありませんが、この頃から細かい指示はなされていました。レイアウトの経年劣化が時代を感じさせ、とても貴重なものを拝見できたのですが、ただ残念だったのは「ルパン三世 カリオストロの城」のレイアウトが無かったことです。城を舞台にドタバタが繰り広げられるこの作品のレイアウトはかなり見ごたえがあったはずです。

「名探偵ホームズ」のレイアウトを見終えると、高畑監督と宮崎監督のインタビュー映像を繰り返し流しているスペースがありました。予備知識のある者には特に新鮮な内容ではなかったのですが、多くの方が聞き入っていました。
このスペースを過ぎると、最新作「崖の上のポニョ」のレイアウトが展示されていました。展示量はそれほど多くなかったのですが、冒頭のクラゲのシーンや大津波のシーンなど、映画の見所のレイアウトが中心となっていました。さらに、エンドクレジットのレイアウトも展示されていました。絵コンテではエンドクレジットの部分は描かれていないので、クレジットの背景はこのレイアウトを基にして描かれたのです。


「崖の上のポニョ」のレイアウトを見終えると、以後のスペースは写真撮影が可能となっていました。
シータが要塞の地下に保管されているロボット兵に驚くシーン(写真左)、多数のコダマが姿を現すシーン(写真右)のレイアウトの拡大コピーです。


油屋のレイアウトの拡大コピーもありました。


小トトロが次のスペースへと案内してくれます。


イベントの最終スペースは吹き抜けになっていて、様々な催し物がありました。
小トトロのいるトンネルをくぐったり(写真左)、大トトロのお腹に乗ることができます(写真右)。


ポニョのポスターとバケツです。


マックロクロスケを描いて壁に貼るコーナーもありました。鈴木敏夫さんと宮崎吾朗さんのサインの付近に沢山貼られていました。よく見ると、中には小トトロやポニョの絵もあります。


吹き抜けスペースのすぐ横にはグッズ売場がありました。今回の展示会の豪華な画集が発売されていたので、即購入しました。


展示物は以上です。会場を出ると、ポニョバージョンの東京メトロのスタンプラリーがありました。

日本のアニメーションにおけるレイアウトシステムの雛型は、1960年代の東映動画の長編作品からあったようですが、
本格的に確立したのは「アルプスの少女ハイジ」や「母をたずねて三千里」といった1970年代に高畑さんが手がけた名作劇場シリーズです。年に1本長編アニメーションをじっくりと作っていた東映動画時代に比べ、テレビアニメーションの制作スケジュールは相当きつかったらしく、作業スピード向上とクオリティ維持のためには新たな制作システムの構築が不可欠でした。それが、レイアウトシステムだったのです。登場人物のサイズと背景との位置関係、動きの要点、カメラアングルなどが設計されたレイアウトがしっかりしていれば、多数の外注スタッフを抱えるテレビアニメーションの制作においてもクオリティの統一的に向上させることが出来ます。宮崎駿という有能なレイアウトマンがいたこと、当時コピー機が普及しつつあったことがレイアウトシステムの確立に大きな役割を果たしました。
アニメーションの制作において重要な役割を果たしてきたレイアウトですが、陽の目を見ずに捨てられることが多かったようです。レイアウトは背景画やセル画、原画に比べて地味なため、これだけのために展示会を開催するのは恐らく前例のないことだと思います。スタジオジブリまたは宮崎駿がブランド化していて集客が見込めること、何より高畑勲、宮崎駿がレイアウトシステムを確立していった当事者だったことが展示会の開催を可能としたのでしょう。レポートの冒頭に期待していたと書きましたが、その期待通りに充実した展示会でした。高畑さんと宮崎さんがいかに試行錯誤してアニメーションを制作してきたかということが多くの人の目に触れるのは、ファンとしても嬉しいことですね。