読書が大好きな中学3年生・月島雫は夏休みのある晩、自分が借りた本の貸出カードに”天沢聖司”という名前が載っているのに気づく。彼は雫が借りた本を全て先に借りていた。「どんな人だろう」、「素敵な人かしら」と、まだ見たこともない人物が気になっていく雫であった。
ある晴れた日、雫は親友の原田夕子に自分が考えた「カントリー・ロード」の訳詞を見せるために学校に通う。グラウンド横のベンチで訳詞を2人で歌い、夕子は「悪くないよ」と言うが、雫はその内容に納得できなかった。その後、夕子が恋の相談を持ちかけたが、その最中、雫の同級生・杉村がグラウンドから金網越しにバッグを取ってくれるようにせがんだ。雫は杉村のバッグをグラウンドに放り込んだが、そんな中、夕子は顔を赤くしてベンチから走り去ってしまう。夕子が好きだったのは杉村だったのだ。帰り道、雫は学校の図書室で借りた本を忘れてきたことに気づく。夕子を先に帰らせて戻ってみると、ベンチには見知らぬ少年が座り、雫が借りた本を読んでいた。彼は本を返したが、「お前さあ、コンクリート・ロードはやめた方がいいと思うよ」と嫌味を言って去ってしまう。自分の作った訳詞を読まれた雫は「やな奴!」と憤慨するのであった。
別の日の朝、雫は図書館に務める父親に弁当を届けるために出かけるが、電車の中で大きな猫に出会う。好奇心を抱いた雫は猫を必死に追い続け、丘の上のロータリーで偶然「地球屋」というお店を見つける。
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恐る恐る中に入ると、そこはクラシック家具や古楽器が飾ってあるアンティーク・ショップだった。雫は店のテーブルに置いてあった一体の猫の人形に魅かれる。そして、店主である老人・西司朗と出会い、修理が完成したばかりのからくり時計を見せてもらう。すっかりお店のことを気に入った雫だが、本来の目的である用事を思い出し、急いで図書館に向かう。図書館への階段を昇っている途中、自転車に乗った例の少年に呼び止められ、なぜか地球屋に忘れてきた弁当を渡される。そして、去り際にまたしても嫌味を言われ、いい気分が台無しになってしまう。図書館で父親に弁当を渡して読書をしていると、その本の貸出カードにも”天沢聖司”という名前が載っていた。
夏休みが終わり、新学期が始まっても雫の頭からは”天沢聖司”のことが離れず、職員室でベテランの先生から手がかりをつかもうとしたが、意外にもあっさりとその正体が分かりそうになり、職員室を飛び出してしまう。直後、例の少年と渡り廊下ですれ違うが、今度は完全に無視され、またも雫は腹を立てるのであった。
その日の夜、雫は電話で呼び出されて近くの公園に行くと、そこには泣いている夕子がいた。意中の杉村が、友達に頼まれてラブレターの返事を催促したためであった。
次の日、夕子は前日のショックで学校を休んでしまう。放課後、杉村は雫を呼び出し、夕子が泣きだした理由を聞く。そこで雫は夕子が杉村に好意を寄せていることを打ち明けるが、逆に杉村から告白されてしまう。杉村のことをただの友達だと思っていた雫は、狼狽しながらもこれを断った。
一旦は帰宅した雫だが、落ち込んだ気分を紛らわせるために地球屋に向かう。店は閉まっていたが、また例の少年が現れ、中に案内される。そこで雫は、今まで散々腹を立ててきた彼こそが”天沢聖司”だと知ってしまいショックを受ける。しかし、聖司がヴァイオリン職人を目指してイタリアに修業しに行こうとしていることを知り、彼に対するイメージが変わっていく。
次の日の昼休み、聖司は雫を呼び出し、屋上でイタリアで修業することが決まったことを伝える。目標に向かって進んでいく聖司に対し、進路が全く決まってない自分に焦りを感じた雫は、その晩夕子の家で物語を書くことを決心する。
後日、雫は西司朗からバロンの使用許可を得る。夕方、図書館で情報収集していると、目の前に聖司が現れ、翌日イタリアに行くことを告げられる。帰り道、2人は互いの目標に向かって頑張ることを約束し、別れた。
時が過ぎ、雫たちの制服も夏服から冬服に変わる。雫は物語を書くことに夢中で、学校の授業には集中できず、家に帰っても部屋に閉じこもってばかりだった。
そんな折、母親が担任から呼び出され、雫が中間テストで100番も順位を落としていることを告げられる。姉もその事実を知り、夜になって父親が帰宅すると、姉妹喧嘩の真最中であった。父親の仲裁の後、親子3人での進路相談となり、雫は今打ち込んでいることを最後までやることを認めてもらう。
晩秋の夕方、物語を書き終えた雫は地球屋を訪れ、西司朗に自身の処女作を今すぐに読んでくれるように頼む。部屋の外で西が物語を読み終えるのを待つ雫。やがて日が暮れ、部屋の中から出てきた西は、「ありがとう。とても良かった」と感想を言うが、物語の出来に自信のない雫は正直な感想を言ってくれるようにと迫る。そんな雫に対して西は、「荒々しくて素直で未完成で、聖司のヴァイオリンのようだ」と物語を表現し、慌てずに時間をかけて自分の才能を磨くようにと諭した。今まで溜まっていた感情が爆発し、雫は号泣する。
その後、部屋の中に入った2人はうどんを食べ、西はバロンに関するいきさつを話す。それは雫が書いた物語と不思議なほど類似していたものだった。西に車で送ってもらって帰宅した雫は、母親に受験生に戻ることを宣言し、そのまま風呂にも入らず寝てしまう。
翌朝、目を覚ました雫が何気なく窓の外を見てみると、下の道路に自転車に乗った聖司がいた。実は帰国を1日早め、雫の住むマンションまで来ていたのだった。驚いた雫は慌てて外に飛び出す。聖司は雫を自転車の後部座席に乗せ、”秘密の場所”へと向かう。そこは朝日に照らされた街を見下ろせる高台であった。
そこで聖司は真剣な顔で「俺と結婚してくれないか」とプロポーズをする。そんな聖司に雫も「嬉しい。そんな風になれたらいいなと思ってた」と答える。プロポーズがOKされて舞い上がった聖司は、雫を強く抱きしめ、こう言った。
「雫、大好きだ!」
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